『債務さもなくば悪魔』、『シフト&ショック』

 

 毎日ハンバーグ生活のふてしばがお送りする今回のブログ内容はこちらだ!

 

 

債務、さもなくば悪魔 ヘリコプターマネーは世界を救うか?

債務、さもなくば悪魔 ヘリコプターマネーは世界を救うか?

 

 

 

シフト&ショック──次なる金融危機をいかに防ぐか

シフト&ショック──次なる金融危機をいかに防ぐか

 

 

 

 

この三冊の書評を書きました。さっさと不況を終わらせろは前回書いたのですが、

 

huteshiba-economics.hatenablog.com

 

書き足りないとこもあったのでまた追加できましたのでご一読お願いします。

以下書評。

 

 三冊を読み終えて、やっと読み切ることができたという安堵感と現行経済システムにおける不安感が同時に襲ってきた。三冊に共通した内容として、金融危機時、不況時における望ましい経済政策、金融システムの脆弱性が挙げられる。

 『さっさと不況を終わらせろ』(以下Aで統一)は、望ましい経済政策について詳細に記述してある。一方で、著者であるポール・クルーグマンは、望ましい経済政策を実現するにあたっての障壁を列挙している。その障壁に対するクルーグマンの批判的なコメントには、皮肉やユーモアが込められており、その手の文才を感じさせるものがある。この本を読んで感じたことは、日本もアメリカもマクロ経済全体の厚生を高める手段はあるが、その手段を実行しようとすると、様々な障壁によって妨害される。その障壁とは、政治的、党派的、思想的なものである。

 結局はアメリカも日本と同じ状況であるのだ。とは言ってもアメリカには良心的な経済学者、実務家が多数存在しており、未来はまだ明るい。一方、日本における状況は絶望的である。ポスト安倍と呼ばれる首相候補者達は軒並み財政緊縮派であり、頼みの野党も一様に緊縮的な主張を展開している。民進党代表の前原氏はゴリゴリの緊縮主義を一貫して主張している。経済学者も「財政学者」がマクロ経済政策について語り、国が発行する通貨自体に懐疑的なマルクス経済学者達がアベノミクスに反対し、「反成長」、「清貧」などと抜かしている。アメリカでは、共和党民主党が対立軸として、マクロ経済政策は緊縮派とリフレ派が二項対立している点で健全に民主主義が上手く機能していると言えよう。日本では安倍首相の後がなく、個人的に絶望している。その点、Aはこの絶望的な状況の日本に必読の本であると言えるだろう。できれば、クルーグマンには日本についての勉強をしっかりしてもらい、この手の本の日本版を出版してもらいたい。その才能に溢れた皮肉とユーモアを駆使して、とんでもない主張をしている人達をズバズバ斬って頂きたいものと願う。

 『シフト&ショック』(以下Bで統一)と『債務、さもなくば悪魔』(以下Cで統一)は金融危機の原因解明とその解決策を与えられる良書であった。特に、個人的に印象に残った本は後者である。なぜかといえば、金融危機の根本的原因を債務に求めたことにあった。この手の話をすると、「日本の借金がやばい」と騒いでいる人が喜んでしまうかもしれない。彼らのロジックは「借金が多いので増税しよう」ということであるが、Cを読むと話はそんなに単純ではない。Cでは不況時に増税を行ない、政府が借金を返済するために財政を抑制するとマクロ経済が悪化し、債務がより増加してしまう結果になることが記述されている。そもそもなぜこんなに債務が積み重なるのか、債務が積み重なると何が起きるのかが精緻に分析されており、かなり興味深い本であった。しかしながら、異論がある主張もあった。それは、日本の債務がなぜここまで膨れ上がったのかについての原因である。著者のアデア・ターナーは日本の分析に関しては、基本的にリチャード・クーの意見にほとんど求めている。クー氏は「バランスシート不況」という意見を主張している。しかしながら、私は1990年代に日本銀行が不動産価格の個別物価の上昇と一般物価の上昇を混同し、金融引き締めを行ない、その後の金融政策を抑制し続けた。その結果として、デフレが長期間続いたために債務が膨れ上がったと考えている。

 とはいっても、「そもそも不動産価格な異常な上昇はどう考えるのよ」と聞かれたら、ターナーの意見に賛同する。それは金融規制の欠陥が引き起こしてしまったのだと思う。私は、債務の増加についての原因について異論があっただけである。歴史的にも繰り返されてきた金融危機が金融機関の過剰な信用リスクの供給、および自己増殖的に増えていくその信用リスクはいつか弾け飛ぶ。金融規制の必要性も本書と通して学ぶことができた。

 規制改革に関して、私は規制緩和賛成の立場をとってきた。具体的に獣医学部設置の認可申請を認めない告示の規制の緩和などが挙げられる。一方で、金融規制に関しては、抑制的であるべきだと本を通してから考えるようになった。ミクロ経済学の分野として考えていたものがマクロ経済にまでインパクトを与える金融分野は重大なテーマであるとの認識に変わった。

 A、B、Cいずれの本もマクロ経済政策的に積極的な金融緩和、拡張的な財政政策、また不況の原因を引き起こす金融危機を防ぐための金融規制を整備するべきであると唱えている。全世界的経済停滞を脱出するためには、上記に挙げた3つの政策を同時に行うべきであり、究極の経済政策である「ヘリコプターマネー」を実施するのが不況から脱するためには手っ取り早いと自分の中で結論が出た。現行では財政法で禁止されているが今後、再び大恐慌が襲って来る前に経済政策についての議論のテーブルにいち早くのっけるべきであり、政策のカードとしていつでも使えるようにしておくべきである。